遍路道中記―6 (26日目〜30日目)

・・・・距離は概算です・・・・
26日目

行動時間 6時35分〜16時25分 53664歩 (9時間50分 36km) 天候=晴

JR北条駅から浅海駅まで電車。昨日の最終地点浅海駅からスタートする。

≪54番延命寺≫ 

花に癒される遍路道

納経所の住職に「どこから?」と聞かれる。「善光寺のある長野です」「そう、あそこはいろいろ用事があって何回も行っている、大善というそば屋は美味いね。長野へ行くたびに寄るんだよ・・・」小さな会話のあと、お接待でゴマダンゴを一つ下さった。

遍路の途次、よく「どこから?」と聞かれた。信州長野市ですと答えると「良いところですね」と言って、観光で訪れたときの話が話題に上がった。わが信州も捨てたものではない。

延命寺までは長かったが、あとは札所が固まっていて次々と納経がはかどる。

≪55番南光坊≫ 
市街地の中にある札所。
54番延命寺から南光坊への途中、遍路みちに不安があって通りがかった老人に尋ねた。ところがこのご老人は認知症らしい。まるでテープレコーダーのように同じことを何回も何回も繰り返して際限がない。考えてみればお遍路に来てどれだけ多くの人に道を尋ねたことか、これがそのお返しになるのならと思い、相槌をうちながら10分近くお相手をさせてもらった。半信半疑だったが、遍路道の説明に間違いはなかった。

あの老人は今日もあの道を散歩し、遍路の人に同じように説明をしているかもしれない。

≪56番泰山寺≫ 

四国遍路無縁墓地

泰山寺を出て遍路道が蒼社川に突き当たるあたりに“四国遍路無縁墓地”がある。多くの墓石が立ち並ぶ様子から、昔は遍路の途次で亡くなった人もかなりいたであろうことが推測される。


≪57番栄福寺≫

≪58番仙遊寺≫

仙遊寺は作札山の山頂付近にあって、高低差200数十メートルの山道を登らなくてはならない。山門には“作札山”の扁額がかかっている

≪作札山 281m 四等三角点≫

仙遊寺境内から石仏の並ぶ山道を駆け足でピークへ。四等三角点があるはずだが、最高点辺りを探したが標石は見つけられなかった。

作札山々頂

仙遊寺から急な山道を下っているとき、左足の甲に前触れもなく原因不明の締め付けられるような激しい痛みが襲った。

まともに歩けない。いったい何が起きたというのだ。靴紐はいつもと変わらぬ程度に締めているはず。

今治市富田付近のホテルまで、痛みをこらえて何とか歩いた。明日の朝はケロリと治っているだろう・・・と呑気に考えていたが、まさかこのあと遍路が終わるまでの10日あまり、この痛みと戦うことになるとは考えもしなかった。

27日目


行動時間 5時50分〜14時25分  42393歩(8時間35分 30km) 天候=晴・爽快

バスツアーやマイカー遍路がやたらに多い日だ。

足の甲だけでなく、脛の下部も痛くなった。一歩一歩左の足首が曲がるたびに強い痛みが襲う。ガマン、ガマン・・・そのうち良くなるだろう。

≪59番国分寺≫ 

88札所には同名の“国分寺”が4県それぞれ一ケ寺づつある。

59番の次は60番横峰寺となるが、後回しにして61番へ。


讃岐国の国分寺

≪61番香園寺≫ 

本堂は常識を覆した近代建築そのものにびっくり。

≪62番宝寿寺≫ 

宝寿寺は八十八霊場協会に属していない旨の表示がある。寺全体に寂れた感じが漂う。納経も12時〜1時は締切。運悪くその時間に当たってしまい40分ほど待つ羽目になった。

≪63番吉祥寺≫

今宵の宿は黒瀬ダム湖畔にある温泉旅館。吉祥寺境内で掃除をしていた高齢のおばあさんに温泉旅館への道を教わる。わかるように教えようという一生懸命さが伝わってきて頭が下がる。

宿までは舗装車道だが、勾配が足の痛みをさらに強くする。
痛みは足の甲より足首の上部(スネの下部)の方が厳しい。筋肉が痛むのか骨が痛むのかわからない。右足だけで歩いている感じ。この先どうなるのか不安。厳しい登山やマラソンで鍛えてきた足、簡単に壊れるようなやわな足ではないはずだ。始めての経験。

途中で買ったシップ、鎮痛剤で処置し、今日の予定を何とか歩ききったがつらい一日だった。
宿の階段の昇り降りも横向きで一段一段足を揃えてというありさま。
明日は遍路転がしの一つ横峰寺だ。痛みの解消を祈りながら乳白色の温泉にどっぷりと浸かる。

全行程の3分の二は終わった。石にかじりついてもがんばらねば。悲壮!

28日目

行動時間 6時35分〜16時15分  48189歩 (9時間40分 30km) 天候=曇・小雨

≪60番横峰寺≫

標高745mの横峰寺 

標高745mの高所にある寺、宿からの高低差550m。途中、100mほどの下りが入るので、登りの累計は700m近くになるだろう。脚を引きずるようにして進む。推進力は右足だけ。

下り坂のときは甲の締め付けがいっそう強くなる。靴ひもを緩めてみると少し楽な気がする。やはり締めすぎだったのか?しかしスネの方の痛みは変わらない。

≪横峰858m 三角点なし≫

シャトルバスの終点付近が横峰の最高点だろう。

≪64番前神寺≫

足を一歩運ぶたびにずきんずきんと響く。歩幅も小さくなっている。特に上り下り関係なく勾配のある道が痛みが強い。寺につきものの石段はどうにもならない。横向きで一段一段足を揃えての上下。またも中途帰宅か、いやな予感が脳裏をよぎる。

西条駅を3キロか4キロ過ぎたあたりでついにダウン、痛くてもう歩けない。タクシーで新居浜市のホテルへ。結局タクシー利用の10キロほどは、歩かずじまいになってしまった。

新居浜のホテルに入り、マメ対策でテープだらけの左足をよく見ると、大きく腫れているのに始めて気がついた。翌日から靴の中敷きを抜き、靴ひもも一番手前を穴から抜いてみた。圧迫される痛みは和らいだが、脛の方はそれでも変わらない。痛みの引くのを祈るしかない。

29日目

7時05分〜15時10分  35950歩 (8時間05分 23km) 天候=晴

痛みに耐える一日を考えると憂鬱、それでも気力で新居市のホテルを出る。
1キロでも前に進んでおきたい。

左足を軽く地面に下ろし、右足の推力だけで進む。途中から電車に乗ることも考えながら、何とか伊予三島まで歩けた。3キロ1時間前後という這うようなのろのろ歩きだがまだ何とか歩ける。

薬局でサポーターを買う。いくらかは効果がありそう。

30日目

行動時間 8時00分〜13時20分  30950歩 (5時間20分 15km) 天候=晴

足の痛みは変わらない。休養日にするかどうか迷ったあげく、三島市の宿を8時にスタート

≪65番三角寺≫

桜満開の三角寺

三角寺へは急な山道。つらいが一歩づつでも進まなくては。今はただ痛みとの戦い。お大師様、どうか痛みを取り除いてください。

一昨日、松本城を見てきたという婦人たちとしばらく話し込む。実はもう歩く気力が萎えてずっと休憩していたかったのだ。ご婦人からお接待にあられをいただく。

≪別格札所椿堂≫

遍路道を外して三角寺口まで大きく下ってしまい、また登り返す。足痛にはつらい間違いだった。登りより下りの方がつらい。右足だけに頼っているせいか、疲れが溜まってきたのがわかる。

三角寺からの下りで畑仕事のお婆さんからミカンのお接待、甘くて美味しかった。

別格霊場の椿堂

予定していた雲辺寺登山口に近い民宿岡田は満員、代わりに紹介してくれたのが白地荘、岡田に着いたら電話するとすぐ迎えに来てくれることになっていた。しかし椿堂から民宿岡田までの6キロが歩けない。痛みは最悪、限界。タクシーを呼んで岡田へ。白地荘からの迎えを待つ。

民宿とはいえ白地荘ではバス・トイレ付の部屋を当てがわれて満悦。庭に何本もある桜は満開、高台にあってロケーションは最高。食事の質・量も満足で、女将さんも感じのいい人だった。民宿岡田が満員だったのがかえって幸いした。

この日は、あられ、ミカン、アメなど3回もお接待をいただいた。痛みに耐える遍路を見て、お大師様が手をさしのべてくれたのかもしれない。

  
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