(登山のコーナー)
(65)日本百名山への「序」

穂高岳登山から2ヵ月が過ぎていた。
日本百名山へ向けて、自分なりの準備も一応整い、山はそろそろ秋を迎えて登山には絶好の季節に入った。

最初の山をどこにするか山名リストを何回も眺めながら考えた。
最初の山だけは妻と一緒に登るつもりでいた。

9月末近くの日曜日、30年ほど前の若いころに登ったことのある大菩薩嶺へ出かけた。
上日川峠から大菩薩峠、大菩薩嶺を周回するコースを歩いた。枯れたカヤトの草原を初秋の風が吹き抜ける。富士山が大きく中空に浮いている。
これが日本百名山なんだ。
南に開けた展望からは薄墨色にかすんだ高峰の連なりが望める。しかし一つとして山の名前を指呼することができない。
延々と遠く連なる山巓は、私の目にはただ大きな一つの山塊にしか見えないが、あの南アルプス連峰の中にはこれから訪れる日本百名山がいくつかあるのだ。
私は山と言うものをはじめて感慨を持って眺めていた。
家に帰ると百名山リストの大菩薩嶺の頭に丸印をつけた。

こうして日本百名山挑戦への「序」は終わり、いよいよ本格的行動へと移っていった。
さまよいながら見つけ出した目標、生きがいの日本百名山山行の計画にかかった。
当時、まだ休日は日曜と祭日だけという時代。気持ちだけは前に向いていても、事情が障害となって思うようにいかない。
それでもの「山行ブランを考える楽しさに次第にはまりこんでいった。

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