「それが、その彼女なんや。」 院長はゆっくりと頷き 「もちろん、飛行機づくりのメンバーには他に女の子もいたんだけれど、彼女とは何故 か気が合って、飛行機づくりの時間以外も一緒に過ごすことが多くなっていた。…と言 ってもいつも飛行機の事ばかり話していたけれどね。いつの間にか付き合ってたって感 が告白したって訳でもないし…。付き合ってるって実感もあんまり無かったんだ。」 「へんなの。」ソラが呟く。 「ところがある日。事件が起きた。」
「事件って?」 ソラの母も話しに夢中である。院長は母に笑みを浮かべ 「彼女がドイツに留学することになったんですよ。」 「ほりゃ大事件や!」 じいさんも身を乗り出す。 「ドイツで医学を勉強することになって…私たちは別れ離れになることになった。その ことがわかってから彼女の存在がどんなに大切だったのか…やっと気づいた。でも、も う遅かったんだ。」 「何で?行くなって言ってあげんかったん?」皆が思っていることをソラが質問する。 「留学の話が盛り上がっている頃、私たちはコンテストに向けて飛行機づくりに余念が 無かった。彼女が制作に来なくなったのは気づいていたけれど…私達には時間が無かっ た。とにかく飛行機を完成させることに全てを費やして…気がついた時には彼女の留学 はどうにもならない状況だった。」 「見送りに行ってあげたんですか?」静かな口調で市川が聞く。 「いや。」 「どうしてですか?」キテレツが食い入るように院長を見つめる。 「その日は…鳥人間コンテストの当日だった。」 「そんなの…飛行機は完成したんだから、当日は他の人に任せれば良かったんじゃ…。」母が言いかけるのを止めるかのように、じいさんが口を開く。 「ほうじゃった、山地が飛んだんや…あの時のパイロットは山地やった…。」 一呼吸置いて院長が続ける。 「私が行かない訳にはいかなかった。折しも彼女のフライトの時間と私たちのチームの 飛行予定時刻は、ほぼ同時刻だった。」ページをめくる