劇団110SHOWインターネット公演 〜院長の場合〜 page4

前に戻る


「それが、その彼女なんや。」
院長はゆっくりと頷き

「もちろん、飛行機づくりのメンバーには他に女の子もいたんだけれど、彼女とは何故
か気が合って、飛行機づくりの時間以外も一緒に過ごすことが多くなっていた。…と言
ってもいつも飛行機の事ばかり話していたけれどね。いつの間にか付き合ってたって感
が告白したって訳でもないし…。付き合ってるって実感もあんまり無かったんだ。」

「へんなの。」ソラが呟く。

「ところがある日。事件が起きた。」
練習風景3

「事件って?」
ソラの母も話しに夢中である。院長は母に笑みを浮かべ
「彼女がドイツに留学することになったんですよ。」

「ほりゃ大事件や!」
じいさんも身を乗り出す。

「ドイツで医学を勉強することになって…私たちは別れ離れになることになった。その
ことがわかってから彼女の存在がどんなに大切だったのか…やっと気づいた。でも、も
う遅かったんだ。」

「何で?行くなって言ってあげんかったん?」皆が思っていることをソラが質問する。

「留学の話が盛り上がっている頃、私たちはコンテストに向けて飛行機づくりに余念が
無かった。彼女が制作に来なくなったのは気づいていたけれど…私達には時間が無かっ
た。とにかく飛行機を完成させることに全てを費やして…気がついた時には彼女の留学
はどうにもならない状況だった。」

「見送りに行ってあげたんですか?」静かな口調で市川が聞く。

「いや。」

「どうしてですか?」キテレツが食い入るように院長を見つめる。

「その日は…鳥人間コンテストの当日だった。」

「そんなの…飛行機は完成したんだから、当日は他の人に任せれば良かったんじゃ…。」母が言いかけるのを止めるかのように、じいさんが口を開く。

「ほうじゃった、山地が飛んだんや…あの時のパイロットは山地やった…。」
一呼吸置いて院長が続ける。
「私が行かない訳にはいかなかった。折しも彼女のフライトの時間と私たちのチームの
飛行予定時刻は、ほぼ同時刻だった。」
ページをめくるかか