エジプト徒然草
 
其の9


1998.04.11(土)
アンケセナーメンの花束


 横たわったこの少年王の額には、上下エジプトをみごとな象眼の二つのシンボル -コブラとハゲタカ-があり、そして、おそらく、人間な素朴心情をあらわすもっとも感動的なものは、 このシンボルの周辺に、小さい花束がおかれてあったことだ。 わたしたちは、この花束を、 夫に先立たれた少女の妃が、「二つの王国」を代表した若々しい夫にささげた最後の贈り物と考えたいのである。
いたるところの黄金の色きらめく、帝王の豪華、王者の華麗の中にあって、まだほのかに 色をとどめたささやかなあせた花ほど美しいものはなかった。 それは、三千三百年といっても ごくわずかの時間であって、昨日と今日の境にすぎないことを物語っていた。
  

ハワード・カーター著 『ツタンカーメン発掘記』より


 少々、長い引用になってしまいましたが、ツタンカーメン発掘記のこの部分がなければ、これほどまでに ”エジプト”にコダワリを持つことは無かったと思います。 小学生の頃に読んだものは、子供向けの本でした から、この通りの文章ではなかったと思うのですが、カーターが、王妃アンケセナーメンからのツタンカーメンへの 最後の贈物ではないかと記した、この小さな花束の存在に、心を囚われたまま今に至っています。

 ツタンカーメンの棺は、この花束だけでなくオリーブ、やなぎの葉、青ハス、矢車菊の花びら等から つくられた花輪、花飾りに覆われており、こうした花々の種類から、ツタンカーメンの葬儀が、3月半ばから 4月の終わり頃、つまり今頃の時期に行われたであろうとされています。

 これからも、色々な発掘調査が続けられていくうちに、あるいは、ツタンカーメン王の早すぎる 死の原因も解明されるのかもしれません。 花束の存在も、歴史の一ページを確実に記録するための 1素材なのかもしれません。

 もう子供でも無いんだからそんな夢みたいなこと言っているなよと言われるかもしれません。

 けれど、今でも、あの花束が、私が子供の頃受けた印象そのままに、王妃の王に捧げた悲しいけれど、 優しくて、小さくて、柔らかい感情を現在まで伝えてくれた存在であったらいいなと思います。

 それは、色々宝物があったら嬉しいには違いないのですが、心が無かったら空しいから…。

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